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2025/11/23 09:39

(以下、当該ページからの抜粋です。より詳細な記載内容は、上記リンク先をご参照下さい。)


生成AI導入:汎用的AIサービスのカスタマイズ・AIエージェントの構築に関する取引設計、契約書の作成

この記事は、IT・AI法務を専門とする行政書士:岡田旭(MBA)が実務経験に基づいて解説しています。当事務所は、生成AI導入における汎用的AIサービスのカスタマイズ・AIエージェントの構築に関する契約書を作成いたします。また、契約書作成を通じ、取引の設計・業務提携等に関するコンサルティング・アドバイスを行います。

【ユースケース例】
小売事業者・製造事業者・サービス事業者A(AI利用者)が、ユーザエクスペリエンス改善のため、AIチャットボットサービスの提供事業者B(AI提供者)に対して、自社の業態や製品・サービスに特化したカスタマイズサービスの提供を求める。この際、提供事業者Bは、汎用的AIサービスの提供事業者C(AI開発者・AI提供者)との間の契約に基づき基盤モデルを利用し、モジュールやデータベース等を新規に開発する。

→経済産業省「AIの利用・開発に関する契約チェックリスト」では、
「類型2:カスタマイズ型」に分類されるユースケース類型となります。


本ページの参考資料:経済産業省「AIの利用・開発に関する契約チェックリスト」
その他の参考資料:一般社団法人日本ディープラーニング協会「資料室」
→生成AI開発契約ガイドライン/生成AIの利用ガイドライン/ディープラーニング開発標準契約書/NDAに関する契約書

生成AI(カスタマイズ型)導入における契約書作成のポイントと法的リスク

経済産業省「類型2:カスタマイズ型」AI開発とは何か?

「類型2:カスタマイズ型」AI開発とは、端的にいえば、「基盤モデル(汎用的AIサービス)を利用し、非AIモデル(独自モジュール等の付加的な機能)を開発して組み合わせるAI開発」をいいます。

ユースケースとしては、自社専用のAIチャットボットやAIエージェントの構築が挙げられます。

→「類型2:カスタマイズ型」では、事業者A(AI利用者)が、事業者B(AI提供者)に対して、自社の業態や製品・サービスに特化したカスタマイズサービスの提供を求められます。この類型に関する契約は、事業者Bが汎用的AIサービス提供事業者C(AI開発者・AI提供者)から提供される基盤モデルを利用しつつ、モジュールやデータベース等を新規に開発するという要素を含むため、「開発型契約」に分類されます。

「類型2:カスタマイズ型」の契約で留意すべき3つのポイント・法的リスク

→事業者Aと事業者Bが「類型2:カスタマイズ型」の契約を締結する際に留意すべき主なポイントと法的リスクとして、以下の3つが挙げられます。

1. 開発型契約の性質と当事者の多層的な関係性
2. インプット(事業者Aからの提供データ)の取扱い
3. アウトプット(カスタマイズサービスの結果)の取扱い

以下に、ユースケース(小売事業者・製造事業者・サービス事業者AがAIチャットボットのカスタマイズサービスをBに求める)に基づいた、契約締結時の留意点を説明します。


1. 開発型契約の性質と当事者の多層的な関係性

「類型2:カスタマイズ型」は開発を伴う契約類型であるため、利用型契約に比べて柔軟に交渉を進めやすい場面が想定されます。しかし、同時に以下の点に留意が必要です。

A. 多層的な契約関係による制約

事業者Bは、事業者Aに対してはサービスの提供者(ベンダ)として関与しますが、基盤モデルを提供する事業者Cとの関係では、汎用的AIサービスの利用者(ユーザ)としての立場を持ちます。

・事業者Cの利用規約等の確認

事業者Bが提供するカスタマイズサービスには、事業者Cが提供する汎用的AIサービス(基盤モデル)が組み込まれています。

→そのため、事業者Aは、汎用的AIサービス(基盤モデル)に関する利用規約等についても、可能な範囲で検討を行うことが望ましいです。

→また、カスタマイズサービスでは、その基盤となる汎用的AIサービスの利用規約等の改定に連動して、カスタマイズサービスの利用規約を変更する必要が生じる場合があります。事業者Aは、関連する汎用的AIサービスの利用規約等の改定を随時確認するためのチェック体制を整備することが望ましいです。

・交渉範囲の限定

事業者Bは、事業者Cが提供する汎用的AIサービス(基盤モデル)に関する利用規約等に拘束されるため、事業者Aとの個別交渉においても、事業者Bが受容できるリスクの範囲が限定される場合があります。

・情報開示の柔軟な対応

事業者Aは、事業者Bに対して、事業者Cの詳細やBとCの間の契約条件を明らかにすることを求めることも考えられますが、事業者Bがその情報開示に難色を示すことも想定されます。事業者Aは、合理的な範囲で情報収集を行い、意思決定を行う柔軟な対応が求められます。

B. リスク調整の段階的な実施

AIシステムの開発(特にチャットボットのような継続的な運用を伴うサービス)においては、契約締結時点でAIシステムに生じ得るリスク分析が技術的な制約により十分に実施できない場合があります。

→この場合、開発型契約単体でリスク調整を行うのではなく、その後、当事者間で締結される運用やサービス利用に関する継続的な契約で段階的に調整することで、より実態に即したリスク分配が可能となる場合があります。


2. インプット(事業者Aからの提供データ)の取扱い

このユースケースでは、事業者Aが自社の業態や製品・サービスに特化したカスタマイズを求めており、内部文書や取引情報(顧客の来店・購入履歴など)といった機微情報を含むインプットを提供する可能性があります。

A. AI学習目的での利用範囲の特定(契約チェックリスト4.2.2の類型)

カスタマイズサービスは、特定のユーザ(事業者A)のニーズに特化したアウトプットを出力するために、事業者Aから提供された情報を用いてAIシステムを改良・調整するサービスです。これは、「ユーザへのサービス提供に必要な範囲でのみAI学習目的に利用される場合」(契約チェックリスト4.2.2)に該当します。

・リスクの低減と残存リスク

汎用的なAI学習目的での利用(契約チェックリスト4.2.1)と比べてリスクは低減されますが、以下のリスクは残存します。

→事業者Bが契約や約款に反してインプットを自己使用または外部提供するリスク。
→事業者Bのシステムの欠陥やサイバー攻撃等により、インプットが外部に漏洩するリスク。
→事業者Bによる無断使用のリスク。

・対応方針

事業者Aは、不必要な情報を可能な限りインプットに含めないことが基本的な対応方針です。

・セキュリティ水準の確認

特に機微情報をインプットに含める場合、事業者Aは、事業者Bのシステムの構造やセキュリティ水準に関して慎重な検討を行う必要があります。インプットが学習目的に利用されない環境が確保されているかは、事業者B側の運用やセキュリティ水準に依拠するためです。

B. 開発型契約における利用条件の交渉

開発型契約では、インプットおよびインプット処理成果(学習用データセット等)の利用条件が、契約交渉の重要な検討事項となります。

・利用目的の明確化

事業者Aは、事業者BがAI関連サービスの提供目的を超えて、自社技術の開発目的にインプットを利用することを認めるか否か、認める場合はその具体的な条件(利用可能範囲、対価の有無など)を検討する必要があります。

・個人情報保護法に関する留意

インプットに個人データが含まれる場合、事業者Bによる自己目的利用や突合が認められると、「委託」として整理できず第三者提供に該当する可能性があり、その場合は本人の同意が必要となる可能性があります(個人情報保護法27条1項)。


3. アウトプット(カスタマイズサービスの結果)の取扱い

この類型は開発が伴うため、アウトプットの「完成義務」や「権利帰属」について、「利用型契約」よりも詳細な検討が必要です。

A. 開発成果物の権利帰属の明確化

開発型契約では、開発により創出された成果(アウトプットやアウトプット処理成果)に関する知的財産(フォアグラウンドIP)と、開発に関係なく各当事者が有する知的財産(バックグラウンドIP)の区別が重要になります。

・線引きの必要性

「類型2:カスタマイズ型」では、事業者Bが開発したモジュールやデータベース等が、事業者Bがあわせて提供する既存のAIシステムと組み合わせて利用されるため、アウトプットの具体的な範囲や、それがフォアグラウンドIPに該当するのか、事業者BのバックグラウンドIPに該当するのかが不明確になりがちです。

・初期段階での認識合わせ

開発が進むにつれてアウトプットの具体的な範囲が不明確になることを避けるため、開発初期の段階で当事者の認識を擦り合わせることが重要です。

・利用条件

アウトプットに関する権利が事業者Aに移転しない場合、事業者Aは、アウトプットの利用方法が限定されることを理解した上でサービスを利用する必要があります。

B. 契約の性質決定と完成義務

カスタマイズサービスにおける開発部分(モジュールやデータベース等)について、契約の性質を請負契約(仕事の完成を目的)とするか、準委任契約(事務の遂行を目的)とするかが、事業者Bが負う義務に影響を与えます。

・請負契約の場合

事業者Bは、仕事の完成義務(民法632条)および契約不適合責任(民法559条・562条から564条)を負います。

・準委任契約の場合

事業者Bは、善管注意義務(民法644条)を負うに留まります。

・重要な論点

抽象的な契約分類よりも、事業者Aが事業者Bに対して、成果の内容や水準をどの程度求めるかが重要な論点となります。


「類型2:カスタマイズ型」の契約は、既製品の汎用的なAI(事業者C)を特注品(事業者A向けカスタマイズ)として提供する(事業者B)という構造であり、契約上の留意点は、既製品の「利用」のルール(事業者Cとの関係)と、特注品の「開発」のルール(事業者Bとの関係)を、事業者Aの立場から同時に検討する必要がある点に例えることができます。

特に、事業者Bが事業者Cの利用規約に縛られているという制約条件を理解した上で、事業者Aは事業者Bと交渉に臨むことが重要になります。

生成AI(カスタマイズ型)導入における契約書作成|Q&A

Q. 生成AIのカスタマイズ開発は、どの契約類型に分類されますか?

A. 一般的に「開発型契約」に分類され、経産省ガイドラインでは「類型2:カスタマイズ型」と呼ばれます。基盤モデル(GPTなど)を利用しつつ、追加のモジュールやデータベースを新規開発する形態です。

Q. 自社データ(インプット)がAIの学習に使われないようにするには?

A. 契約書で「利用目的の限定/制限」を明確にする必要があります。開発ベンダに対し、提供データを「当該サービスの提供」以外の目的(自社AIの精度向上など)に使用することを禁止する条項を設けるのが一般的です。

Q. 生成AIのカスタマイズ開発で、成果物の著作権は誰に帰属しますか?

A. 開発された部分(フォアグラウンドIP)と、元々のAI基盤(バックグラウンドIP)で異なります。新規に開発されたプログラムやDB部分はユーザ(委託者)に帰属させることが可能ですが、AIモデルそのものやベンダの既存ノウハウはベンダ(受託者)に留保されるケースが多く、事前の切り分けが重要です。

Q. 生成AI開発における「多層的な契約関係」とは何ですか?

A. ユーザ(委託者)、ベンダ(受託者)、基盤モデル提供者(Google, OpenAI、Microsoft等)の3者が関わる構造のことです。

生成AI環境構築・導入支援サービスの業務メニュー

生成AIの環境構築・導入支援を行う企業が提供している業務メニューは、大きく分けて「コンサルティング(戦略・ルール策定)」「開発・構築(技術実装)」「教育・研修(人材育成)」の3つのフェーズで構成されています。

一般的に提供されている具体的な業務メニューを以下に整理します。


1. コンサルティング・導入前支援

企業が生成AIを安全かつ効果的に導入するための準備段階です。

▪️導入アセスメント・ロードマップ策定
現在の業務フローを分析し、生成AIで効率化できる領域を特定。
導入効果の試算(ROI)と実装計画の策定。

▪️ガイドライン・利用ルールの策定支援
セキュリティポリシー、著作権、入力データに関する社内ルールの策定。
情報漏洩リスク対策のコンサルティング。

▪️PoC(概念実証)支援
本格導入前に、特定部署や特定業務(例:議事録作成、メール文案作成)で試験的に導入し、実効性を検証するサポート。


2. 環境構築・アプリケーション開発

実際に生成AIを使える環境を整備する技術的なメニューです。

▪️セキュアな生成AI環境の構築
Azure OpenAI ServiceやAWS Bedrock等を活用し、入力データが学習に利用されないセキュアな(閉域網)環境の構築。

▪️RAG(検索拡張生成)システムの構築
社内マニュアル、規程、過去のドキュメント等をAIに参照させ、社内固有の質問に回答できる検索システムの開発。

▪️社内用チャットボットの開発・UI提供
ChatGPTのような対話型インターフェースの導入(Webアプリ、Slack/Teams連携など)。

▪️独自モデルのファインチューニング
特定の専門知識や業界用語を学習させた、企業独自のカスタムモデルの作成(より高度なメニュー)。


3. 教育・研修・定着化支援

システムを作った後、社員が使いこなせるようにするためのメニューです。

▪️プロンプトエンジニアリング研修
意図した回答を引き出すための指示出し(プロンプト)技術の講習。
初級者向けから、業務特化型の上級者向けまで。

▪️リテラシー・リスク教育
ハルシネーション(嘘の回答)への注意や、著作権侵害リスクなどの基礎教育。

▪️活用事例・テンプレート集の提供
「日報作成」「企画書構成」など、すぐに使えるプロンプトテンプレートの配布。


4. 保守運用・伴走支援

導入後の継続的なサポートです。

▪️回答精度のモニタリング・改善
RAGなどの回答精度を定期的にチェックし、参照データの入替やプロンプトの修正を行う。

▪️最新AIモデルへのアップデート対応
次々と出る新しいAIモデルへの切り替えや検証代行。


【契約形態の傾向】

これらのサービスは、以下のような契約形態で提供されることが一般的です。

▪️スポット契約
研修、ガイドライン策定、環境構築(初期費用)

▪️継続的な契約
コンサルティング、伴走支援、保守運用

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→ 生成AI導入支援・カスタマイズ型AIサービス構築・運用業務委託基本契約書+個別契約書
※生成AI導入支援の業務、とくに「カスタマイズ型AIサービス構築・運用業務」に関する業務委託契約書のひながたです。
※カスタマイズ型AIサービス」の例としては、AIチャットボットサービスが挙げられます。
※それ以外は、業界や用途ごとに特化したAIシステム(音声認識、画像解析、業務自動化など)が代表的です。本契約書ひながたは、これらのカスタマイズ型AIサービスに適用可能です。
※甲が乙にカスタマイズ型AIサービス構築・運用業務を委託することを想定しています。
※カスタマイズ型AIサービスの構築(開発・提供)に関する業務、及び運用(保守・運用)に関する業務の双方をカバーしています。
末尾に「個別契約書」のサンプルを2つ付けています(構築業務向け、運用業務向け)。
※経済産業省「AIの利用・開発に関する契約チェックリスト」を参考にして作成しています。

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