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2025/11/21 09:17
生成AI導入:社内研修サービスの取引設計、契約書の作成
当事務所は、生成AI導入の社内研修サービスに関する契約書を作成いたします。また、契約書作成を通じ、取引の設計・業務提携等に関するコンサルティング・アドバイスを行います。
生成AI導入:社内研修サービスの注意点
生成AI導入に係る社内研修サービスは、AIシステムやAIモデルそのものの開発・提供ではありませんが、特定のユーザ向けにサービス(研修実施)及びそれに伴うコンテンツ(研修資料)を提供するものであり、成果物提供の要素を含む業務委託契約として整理されます。
1. 契約の性質決定とベンダの責任範囲に関する注意点
AI導入研修業務は、通常、特定の知識や役務の提供を目的とするため、民法上の準委任契約(善管注意義務を負う)として整理される可能性が高いですが、契約で明確に定めるべきです。
• 完成義務の有無:請負契約(完成義務あり)とするか、準委任契約(善管注意義務に留まる)とするかを明確に定めます。ベンダ側は、研修サービスを実施し、研修資料を作成する義務はありますが、研修を通じてAI導入が成功することや、参加者のAIスキルが特定の水準に達することをベンダが保証する「完成義務」を負う必要はないと整理することが、(ベンダ側にとっては)リスク管理上望ましいです。
• 成果の内容・水準の明確化:ベンダ側は、契約交渉においては、民法上の類型分類(請負か準委任か)よりも、ベンダに対して、研修成果物(アウトプット)の内容や水準をどの程度求めるかを明確にすることが重要です。例えば、研修資料の具体的な構成、講師の資格、提供スケジュールなどについて合意し、ベンダの負うべき義務(善管注意義務)の内容を明確にします。
• 保証・補償条項、責任限定条項:保証・補償条項や責任限定条項など、ベンダ側の負うリスクを限定することについて、十分に検討することが望ましいです。
2. インプット(ユーザ提供データ)の取扱いに関する注意点
ユーザは、研修サービスを受けるため、ベンダに対して内部文書、利用データ、事例、参加者の個人情報などの情報を提供します。これらの情報がインプットに該当します。ユーザ側としては、ベンダがインプットを不適切に利用することを防ぐ取り決めが必要になります。
(1) 利用目的と利用範囲の限定
• ベンダの自己学習目的利用の禁止:ベンダが、ユーザに研修サービスを提供する目的のみに限定してインプットを利用するように、契約で定めます。
→汎用的なAI学習目的(場合によっては、ベンダの自社技術開発目的)にインプットが利用されることがないよう、明確に禁止します。
→ベンダがインプットを自己の学習に用いる旨の定めがある場合、特にインプットに個人データが含まれる場合には、委託として整理できず第三者提供に該当し、本人の同意が必要となる可能性があるため、個人データ取扱いのスキームを慎重に整理する必要があります。
• 機微情報(センシティブ情報)流出のリスク回避:インプットにユーザの秘密情報や営業秘密が含まれる場合、第三者への漏洩や、不正競争防止法上の要保護性が失われるリスクを避けるため、不必要な情報を可能な限りインプットに含めないことが、ユーザとベンダ双方の基本的な対応方針となります。
(2) 個人情報保護法上の対応
インプットに研修参加者の名簿や個人データを含む業務データが含まれる場合、個人情報保護法上の規制を遵守する必要があります。
• 「委託」の整理:ベンダに対する個人データの提供が、ユーザの利用目的達成に必要な範囲内での「委託」(個人情報保護法27条5項1号)に伴うものである場合、本人の同意は原則不要です。ただし、ベンダが委託された業務以外(例:自己の学習目的や独自データの突合)に個人データを扱う場合は第三者提供とみなされ、本人の同意が必要となります。
• 委託先監督義務:ベンダは、ユーザが負う委託先の監督義務(個人情報保護法25条)を履行できるよう、契約において個人データの安全管理措置や、ユーザが合理的に個人データの取扱状況を把握できる事項を盛り込むことが望ましいです。
• 外国への移転規制:もしベンダやその再委託先が外国にある第三者に該当する場合、原則として本人の同意が必要となります(個人情報保護法28条)。ベンダは、基準適合体制の整備等により同意不要の提供を行う場合、その体制を契約で確保する必要があります。
(3) 管理・セキュリティ及び消去義務
• 管理・セキュリティ水準:インプットについて、ベンダによる管理・セキュリティ体制(水準)がユーザの要求する機密水準に適合しているか確認し、契約に反映させます。(管理・セキュリティ体制が十分な機密水準にない場合、ユーザはベンダに対し不必要な情報は提供しないのが、事実上取り得る対応(契約締結断念を除く)となります。
• 保持期間・消去義務:研修業務完了後、ベンダがインプットを保持できる期間を定め、期間完了時やユーザからの求めがあった際の速やかな削除義務を負うことを明確にします。ベンダが削除の履行を証明する書類の発行義務を負うことも検討されます。
3. アウトプット(成果物:研修資料等)の取扱いに関する注意点
ベンダが作成し、ユーザに提供する研修資料、報告書、カスタマイズされたコンテンツなどが「アウトプット」に該当します。
(1) 知的財産権の帰属
アウトプットに関する知的財産権の帰属は、成果物提供の要素を含む業務委託契約・開発型契約において最も対立しやすい事項の一つです。
• フォアグラウンドIPの整理:研修資料、報告書、カスタマイズされたコンテンツのように、研修サービス実施により創出された成果(フォアグラウンドIP)について、その権利がユーザに移転するか、またはユーザに対して利用範囲に制限のない包括的なライセンスが付与されるかを明確に定めます。
→ユーザがフォアグラウンドIPを社内で自由に利用・配布・複製することを想定している場合、権利移転または広範な利用条件が確保されている必要があります。
• バックグラウンドIPの整理:ベンダが既に保有する研修ノウハウや基礎的な資料(バックグラウンドIP)を研修資料に組み込む場合、ユーザがその部分を利用するためのライセンスの有無や内容を定める必要があります。
(2) アウトプットの利用条件と第三者提供
• 利用条件:ユーザによるアウトプットの利用に、追加的な対価、利用目的の制限、禁止的行為(例:外部への販売禁止)などの条件が課せられていないかを確認します。
• 第三者提供:ユーザが研修資料を社外の関連会社等に提供する場合、その提供が許容されるか、及び提供条件を明確に定めます。
4. 契約外でのリスク低減策
ベンダは、契約書に上記の項目を盛り込むことに加え、研修サービスに伴うリスクを低減するための実運用上の体制整備も重要となります。
• インプットの管理体制:研修準備のために顧客データを受け取る場合、不必要な情報を可能な限り含ませない体制を構築し、研修完了後速やかに削除・消去する手順を社内で徹底します。
• 機密性の維持:研修資料やインプットがベンダの企業秘密に該当する場合等、ユーザによる管理・消去義務が課せられることも想定されるため、ベンダは機密保持の必要性に応じた条項設定と運用指導を行う必要があります。
このように、AI導入支援における社内研修サービス業務の契約においては、通常の業務委託契約の論点に加え、研修の性質上、ユーザからベンダに提供されるインプット(特に個人情報や機密情報)がベンダの自己学習に利用されないこと、及びアウトプット(研修資料等)のIPがユーザの社内利用目的に沿って確実に帰属または許諾されることが、契約書作成における重要な注意点となります。
これは、まるで、ユーザの機密情報という貴重な原材料を使って、ユーザ専用の教育ツールというオーダーメイドの道具を作る際に、原材料が道具作り以外の目的に使われないこと、そして完成した道具をユーザが完全に自由に使えることを保証する設計図(契約書)を作成するようなものといえます。
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※甲は生成AI導入を希望する事業者(ユーザ)、乙は生成AI導入支援に係るコンサルティング・研修事業者(ベンダ)としています。
※甲が乙に生成AI導入支援に係る研修業務を委託することを想定しています。
※研修業務の内容を、生成AI導入支援に係る「ライブ研修の実施」と「(アーカイブ動画の配信・提供による)オンデマンド研修の実施」という2つの業務を軸に構成しています。
※乙の知的財産(研修ノウハウ・資料)の保護、生成AI特有のリスク(ハルシネーション、権利侵害、学習利用など)に関する乙の免責を考慮する内容で構成しています。
※経済産業省「AIの利用・開発に関する契約チェックリスト」を参考にして作成しています。
